妹との再会(1)「お兄ちゃんは何も知らないんだね」
「久しぶりだな ナオミ」
「うん お兄ちゃん」
尾崎ケンサク 44才
両親が離婚して俺は母と妹は父と暮らすことになった
俺たちが離れ離れになったのはもう20年も前のことだ
それ以来妹と会うことはなかった
「大丈夫か」
「うん やっぱりお母さんは来てないんだね」
「あぁ」
妹はナオミ 39才
父がガンで一昨日亡くなった
ガンで闘病してたことも昨日の電話ではじめて知った
葬儀には誰も呼んでいない 俺と妹の2人だけだ
父が死ぬ前にそうして欲しいと言ったらしい
「終わったな」
「うん」
「あとは何もしないってことだろ」
「うん お金の無駄だからって」
「こんなところで暮らしてたんだな」
「ずっと貧乏ってわけじゃなかったんだけど
引っ越そうとすると私が病気になったりして」
「病気?」
「もう完治したから大丈夫なんだけどね」
「そうか」
「お兄ちゃんもずっとお母さんと暮らしてるんでしょ」
「あぁ 結婚もせずにな」
「ウフフッ 兄妹揃って独身なんだね」
「相手いなかったのか そんなことないんだろ」
「うん 結婚しようとしたらお父さんがガンになっちゃって」
「それでフラれたのか」
「ううん 相手に申し訳なくて断ったの 私が」
「つくづくタイミングが悪いな おまえは」
「うん そうみたい」
ピチャンッ ピチャンッ
「あっ ちゃんと蛇口締めないとね」
「なぁ ナオミ これからは一緒に暮らそう」
「ううん ここでひとりで暮らすよ 仕事もあるし」
「おまえひとりくらい俺が面倒みてやるって」
「お母さんは私に会いたくないと思うし」
「そんなわけないだろ」
「じゃあ どうして一度も会いに来なかったの?」
「それはそういう約束だったんじゃないか」
「お兄ちゃんは何も知らないんだね」
「どうしたんだ 急に」
「離婚する時にどっちについていくか聞かれた?」
「もう子供じゃなかっただろ 俺たち」
「でも一緒に住むことは決まってたじゃない」
「まぁ そうだけど・・・」
「私がお父さんのこと嫌いだってお母さん知ってたんだよ」
「えっ!?」
「それなのに・・・」
「父さんと何かあったのか」
「そうじゃなくて父親を遠ざけたい時期だったの」
「あっ あぁ そういうことか」
「私がひとりで暮らせないのわかってたはずだしさ」
「高校卒業してすぐだもんな」
「聞かれたらお母さんと暮らすって言うつもりだったのに
勝手に話がどんどん進んでいって・・・」
「その時に俺に相談してくれてれば・・・」
「お兄ちゃんは離婚が決まってから
ほとんど家に帰ってきてなかったじゃない!」
確かにそうだ もう大人になっていたのに
親の離婚に心をかき乱されてしまっていたのだ
妹の気持ちを考える余裕なんてなかった
「お兄ちゃんはお母さんのこと嫌いだった?」
「いやっ どっちかといえば好きだった」
「やっぱりね 私なんてどうでもよかったんだ」
「そんなことは・・・いやっ 全く頭になかったな」
「ひどいよ」
「すまない あの時は俺もどうかしてたんだ」
「ちょっと落ち着いてからでもさっきの言葉を言いに
ここに来てくれてもよかったのに」
「おまえから連絡してくれれば・・・」
「私だけ悪者になればよかったってこと
父親を見捨てる娘になれっていうの」
「そこまでは言ってないだろ 疲れてるみたいだな」
「当たり前でしょ 大丈夫なわけないじゃない
ずっとお父さんの面倒をみて・・・」
妹の涙を見つめながら20年前の自分を戒めた


「うん お兄ちゃん」
尾崎ケンサク 44才
両親が離婚して俺は母と妹は父と暮らすことになった
俺たちが離れ離れになったのはもう20年も前のことだ
それ以来妹と会うことはなかった
「大丈夫か」
「うん やっぱりお母さんは来てないんだね」
「あぁ」
妹はナオミ 39才
父がガンで一昨日亡くなった
ガンで闘病してたことも昨日の電話ではじめて知った
葬儀には誰も呼んでいない 俺と妹の2人だけだ
父が死ぬ前にそうして欲しいと言ったらしい
「終わったな」
「うん」
「あとは何もしないってことだろ」
「うん お金の無駄だからって」
「こんなところで暮らしてたんだな」
「ずっと貧乏ってわけじゃなかったんだけど
引っ越そうとすると私が病気になったりして」
「病気?」
「もう完治したから大丈夫なんだけどね」
「そうか」
「お兄ちゃんもずっとお母さんと暮らしてるんでしょ」
「あぁ 結婚もせずにな」
「ウフフッ 兄妹揃って独身なんだね」
「相手いなかったのか そんなことないんだろ」
「うん 結婚しようとしたらお父さんがガンになっちゃって」
「それでフラれたのか」
「ううん 相手に申し訳なくて断ったの 私が」
「つくづくタイミングが悪いな おまえは」
「うん そうみたい」
ピチャンッ ピチャンッ
「あっ ちゃんと蛇口締めないとね」
「なぁ ナオミ これからは一緒に暮らそう」
「ううん ここでひとりで暮らすよ 仕事もあるし」
「おまえひとりくらい俺が面倒みてやるって」
「お母さんは私に会いたくないと思うし」
「そんなわけないだろ」
「じゃあ どうして一度も会いに来なかったの?」
「それはそういう約束だったんじゃないか」
「お兄ちゃんは何も知らないんだね」
「どうしたんだ 急に」
「離婚する時にどっちについていくか聞かれた?」
「もう子供じゃなかっただろ 俺たち」
「でも一緒に住むことは決まってたじゃない」
「まぁ そうだけど・・・」
「私がお父さんのこと嫌いだってお母さん知ってたんだよ」
「えっ!?」
「それなのに・・・」
「父さんと何かあったのか」
「そうじゃなくて父親を遠ざけたい時期だったの」
「あっ あぁ そういうことか」
「私がひとりで暮らせないのわかってたはずだしさ」
「高校卒業してすぐだもんな」
「聞かれたらお母さんと暮らすって言うつもりだったのに
勝手に話がどんどん進んでいって・・・」
「その時に俺に相談してくれてれば・・・」
「お兄ちゃんは離婚が決まってから
ほとんど家に帰ってきてなかったじゃない!」
確かにそうだ もう大人になっていたのに
親の離婚に心をかき乱されてしまっていたのだ
妹の気持ちを考える余裕なんてなかった
「お兄ちゃんはお母さんのこと嫌いだった?」
「いやっ どっちかといえば好きだった」
「やっぱりね 私なんてどうでもよかったんだ」
「そんなことは・・・いやっ 全く頭になかったな」
「ひどいよ」
「すまない あの時は俺もどうかしてたんだ」
「ちょっと落ち着いてからでもさっきの言葉を言いに
ここに来てくれてもよかったのに」
「おまえから連絡してくれれば・・・」
「私だけ悪者になればよかったってこと
父親を見捨てる娘になれっていうの」
「そこまでは言ってないだろ 疲れてるみたいだな」
「当たり前でしょ 大丈夫なわけないじゃない
ずっとお父さんの面倒をみて・・・」
妹の涙を見つめながら20年前の自分を戒めた



