息子の嫁・熱帯夜(1) 「俺なんかと話してないで後継者作り頑張れよ」

「おまえたちの部屋にはエアコンを
設置してもいいんだぞ」
「何だよ 今さら 前田家の伝統なんだろ」
「そのせいで兄弟が出来なかったのかもしれないしな」
「はぁ・・・天国で母さんが泣いてるよ」



前田義男 67才

妻に先立たれしばらくひとりで暮らしていたが
息子夫婦が一緒に住んでくれることになった


息子は義和 38才

地元の同級生でひとりっ子なのは息子だけだ

俺も妻も子供好きだったが
結婚してすぐに打ち止めになってしまった

その原因かもしれない伝統というのが
夏を扇風機だけで過ごすというものだった

俺が提案したわけではない

亭主関白だった父親が冷え性の母親のために
作った伝統なのだ

「義男 これは前田家の伝統だからな」
「伝統って親父が今作ったんだろ」
「俺に歯向かうとはいい度胸じゃないか
それなら家でも建てるんだな ハッハッハ」

甲斐性のない俺には無理な話だった


息子の嫁は真緒 32才

一緒に暮らすまでは挨拶の時に
たった1回会っただけだった

その時はまだ妻も健在だった

「ここで一緒に暮らせればいいのに」
「そうですね」
「仕事がないだろ ここじゃ」
「わかってるわよ 真緒さん
義和はひとりっ子だからわがままだけど
よろしくね」
「俺の前で言うなよ 母さん」
「ウフフッ」


こっちで一緒に暮らせることになったのは
役場が募集した地域振興の職員に
息子が採用されたからだ


「でも本当にタイミングがよかったな」
「あぁ 前の仕事も辞めようと思ってたし」
「子供がいたら中々引っ越しも面倒だけど
まだおまえたちは2人だからな」
「俺たちは親父の面倒を見るために
一緒に暮らすわけじゃないからな
子供の面倒を見てもらうために・・・
まぁ 親父が役に立つかわからないけど」
「相変わらず生意気な口を聞きやがって」
「でも嬉しいんだろ 親父」
「あぁ 嬉しいよ 感謝すればいいのか」
「ウフフッ」


エアコン設置の提案は息子夫婦に
気に入られるためだ

ひとり暮らしには二度と戻りたくない

友達も若くないので夜までは相手してくれない
酔って帰っても妻の写真と話をするだけだった

「なぁ 俺が先に逝く約束だっただろ
どうしておまえが・・・」

息子が結婚して出て行ってから
新婚時代のように妻と楽しんでいた

若い時のようにケンカしては抱き合って・・・


「そうだ 親父 真緒は料理苦手だから
あまり期待するなよ」
「そうなのかい 真緒さん」
「は、はい 味オンチらしくて」
「小さい頃にジャンクフードばっかり
食べてたんだってさ まぁ 今もだけど」
「ハハハッ ここじゃ 町に出ないと
そんな店もないぞ」
「夜は俺が町で何か買ってくるよ」

「そうだ 真緒さんも働くんだってな」
「はい 働けるうちに少しでも
お金を貯めておこうかなって」
「でもまだ何も決まってないんだ
道の駅で欠員でも出ればいいんだけど」
「そうだ 一緒に農業でもして
その道の駅で野菜でも売るか」
「それいいな 親父も野菜を
作れるようになったみたいだし」
「おまえは・・・まぁ 友達が農業の
エキスパートだからやる気があるなら・・・」
「是非一緒にやらせてください!」
「いやっ 俺もまだまだ素人だから
真緒さんと一緒に教わる立場だけどな」

定年になって暇つぶしで野菜作りをはじめた
それまでは妻が花や野菜を育てていたのだ

ただあくまで趣味の延長といったところで
畑もそんなには広くない

「商品名は俺が考えるよ『前田家の野菜』
『真緒のトマト』『親父のじゃがいも』とか」
「ハハハッ」
「付加価値をつけて価格を上げるのが
都会の売り方だから」
「ビニールハウスがないと無理じゃないか」
「そういうのは専門外だから 
エキスパートと相談してよ」
「そうだな」

思いつきで言ってみただけだが
真緒も乗ってきてくれたので
話を進めることになった


「そうだ 俺もこっちに戻ってきたし
家ではその伝統の格好でうろつこうかな」
「真緒さんに嫌われるぞ」
「ハハハッ でも親父はその格好でいてくれよ
パジャマとか着られると気持ち悪いから」
「真緒さん 本当にいいのかい」
「えっ はい もちろん」
「そういうことは一番先に聞くものだろ
今さら気まずいとか言えるわけないし」
「ハハハッ そうだよな」

ランニングシャツとステテコが基本の格好だ
ちなみにブリーフも含めて白しか着ない

「まぁ 父親になってからでいいか」
「そこまで伝統を気にするなんて
どういう風の吹き回しだ」
「前田家の真の後継者として当然だろ」
「時代小説でも読んだのか」
「いやっ 大河ドラマにはまっててさ」
「ウフフッ」
「ハハハッ」

「俺なんかと話してないで後継者作り頑張れよ」
「言われなくてもバンバン作るから」
「あなた・・・」
「じゃあ 真緒 一緒にお風呂入ろうか
親父 のぞきに来るなよ」
「バカなこと言うな」

会話のある家はやっぱり楽しい


「あいつが親孝行な息子になるとはな
おまえにもこの幸せを味わってもらいたかったよ」

いつも笑っている妻の写真に報告した

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